ランチ補助等の現物給与の取り扱いについて
急激な物価上昇の中、福利厚生の一環として勤務時の昼食を会社が補助する企業が増えています。会社から従業員等に支給する昼食がお弁当などの現物の場合、一定の要件を満たすことで、給与として課税はされません。
そこで今回は、ランチ補助等の現物給与の税務上の取り扱いについて解説します。
目次
-1.現物給与とは?-
給与は一般的には金銭として支給されますが、この他に金銭以外の物品や権利を与えられたときも給与所得として所得税が課税されます。これら金銭以外で受ける経済的利益のことを現物給与といいます。
所得税法における現物給与の対象となるのは主に下記のものです。(所得税法第28条)
- ①物品その他の資産を無償または低い価額により譲渡したことによる経済的利益
- ②土地、家屋、金銭その他の資産を無償または低い対価により貸し付けたことによる経済的利益
- ③福利厚生施設の利用など②以外の用役を無償または低い対価により提供したことによる経済的利益
- ④個人的債務を免除または負担したことによる経済的利益
-2.給与課税されない現物給与-
現物給与については、①職務の性質上欠くことのできないもので主として使用者側の業務遂行上の必要から支給されるもの、②換金性に欠けるもの、③その評価が困難なもの、④受給者側に物品などの選択の余地がないものなど、金銭による給与と異なる性質があり、また、⑤政策上特別の配慮を要するものなどもあるため、特定の現物給与おいては課税上金銭による給与とは異なった特別の取扱いが定められています。
そのため一定の要件を満たせば、その経済的利益はないものとして、給与課税されない(非課税となる)現物給与がありますので代表的なものを見ていきましょう。
-3.食事代の補助-
会社が役員や従業員に対して食事を支給する場合、①従業員等が食事代の半分以上を負担していること、②会社の補助額が1か月あたり税抜3,500円以下であること、この2つの要件を満たせば非課税となります。(所得税基本通達36-38の2)
また、この取り扱いが適用されるのは、食事をお弁当等で用意するなど現物支給するケースに限られます。例えば、従業員等が飲食店で食事代を支払い、その領収書等に基づき会社に請求する場合は、従業員等にその食事代を金銭支給しているため、上記①及び②の要件を満たしていたとしても、補助する全額が給与課税されますので注意が必要です。
ただし、会社が特定の飲食店との契約により、従業員等の食事代を飲食店に支払う場合には、食事の現物支給と同様の行為として、上記①及び②の要件を満たせば非課税となります。
なお、昼食ではなく、残業や宿直等を行った従業員等に食事を現物支給する場合は、全額会社負担であっても、非課税となります。(所得税法基本通達36-24)
-4.通勤手当-
①電車・バス通勤者の場合
最も経済的かつ合理的な経路および方法による通勤定期券などの1ヶ月当たりの金額が、税込15万円までが非課税となります。(所得税法施行令第20条の2一)
グリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため含まれません。
②マイカー利用通勤者の場合
マイカーや自転車などを使用して通勤している人は、職場までの片道の通勤距離に応じて下記のとおり非課税の限度額が定められています。(所得税法施行令第20条の2二)
職場までの片道の通勤距離 | 1か月当たりの限度額 |
2キロメートル未満 | (全額課税) |
2キロメートル以上10キロメートル未満 | 4,200円 |
10キロメートル以上15キロメートル未満 | 7,100円 |
15キロメートル以上25キロメートル未満 | 12,900円 |
25キロメートル以上35キロメートル未満 | 18,700円 |
35キロメートル以上45キロメートル未満 | 24,400円 |
45キロメートル以上55キロメートル未満 | 28,000円 |
55キロメートル以上 | 31,600円 |
-5.従業員社宅・社員寮の家賃-
従業員に対して社宅や寮などを貸与する場合には、従業員から1ヶ月あたり賃料相当額(下記の方法で計算した金額)の50パーセント以上を受け取っていれば非課税となります。(所得税法基本通達36-41、45,47)
【賃料相当額の計算方法】
- (1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
- (2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
- (4)(1)+(2)+(3)=賃料相当額
- (注)会社などが所有している社宅や寮などを貸与する場合に限らず、他から借りて貸与する場合でも、上記の(1)から(3)を合計した金額が賃貸料相当額となります。
ただし、従業員が個人で賃貸借契約を結び、その家賃の一部を会社が負担する場合は、上記の適用がなく、住宅手当として給与課税されますので注意が必要です。
-6.従業員レクリエーション費用-
従業員レクリエーション旅行の場合は、その旅行の内容(旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合など)を総合的に勘案して、社会通念上一般に行われているレクリエーション旅行と認められるもので、その旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追求の趣旨を逸脱しないものであると認められるものについては、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。(所得税法基本通達36-30)
なお、その旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追求の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行期間が4泊5日以内(海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内)であるときは、原則として、その旅行費用は非課税となります。
(注) 上記の要件を満たしている旅行であっても、自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員にその不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされ、給与課税されます。
ただし、次のようなものについては、ここにいう従業員レクリエーション旅行には該当しないため、その旅行に係る費用は給与又は交際費等として処理する必要があります。
- ①役員だけで行う旅行
- ②取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
- ③実質的に私的旅行と認められる旅行
- ④金銭との選択が可能な旅行
-7.人間ドックの検診費用-
役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象として会社がその費用を負担する場合には、その人間ドック等の検診費用は非課税となります。(所得税法基本通達36-29)
ただし、役員だけなど特定の人のみを対象とする場合には、給与又は賞与として給与課税されますので注意が必要です。
-8.まとめ-
今回はランチ補助等の現物給与の税務上の取り扱いについて解説しました。
現物給与は、“社会通念上”や“少額”などと具体的な基準や金額が定められていないものが多いため、税務調査では度々論点になります。
現物給与の取り扱いについてご心配な点やご不明な点がある場合は、顧問税理士等の税務の専門家に相談することをオススメします。
【文責】ニース税理士法人
シニアマネジャー
税理士 髙瀬 明彦