土地建物を一括譲渡した場合の取り扱い
目次
譲渡対価の区分
土地の譲渡は消費税が非課税とされ、建物の譲渡は消費税が課税されるため、土地と建物を一括で譲渡した場合には、
土地と建物に譲渡対価を区分する必要があります。
それぞれの合理的に区分された譲渡対価の額が契約書に記載されている場合はそれぞれの金額を売上高とします。
合理的な区分がされていない場合又は契約書に総額しか記載されていない場合には、
その譲渡対価について、土地部分と建物部分に区分します。
譲渡対価の区分方法
(1)契約書に合理的に区分された土地と建物の譲渡対価がそれぞれ記載されている場合
契約書の記載金額をそれぞれの譲渡対価とする
(2)契約書に譲渡対価の総額と建物に係る消費税等の額が記載されている場合
【消費税率10%の場合】
建物の譲渡対価・・・契約書に記載された消費税等の額÷10%×110%
土地の譲渡対価・・・譲渡対価総額-上記の建物の譲渡対価
(3)契約書に譲渡対価の総額のみ記載がある場合
又は 契約書に記載された土地と建物の譲渡対価が合理的に区分されていない場合
① 固定資産税評価額をもとに按分計算した金額をそれぞれの譲渡対価とする。
② 不動産鑑定評価額をもとに按分計算した金額をそれぞれの譲渡対価とする。
③ 相続税評価額をもとに按分計算した金額をそれぞれの譲渡対価とする。
④ 近隣の不動産取引事例を参考に算出した時価をもとに按分計算した金額をそれぞれの譲渡対価とする。
⑤ 土地と建物の取得時の金額をもとに按分計算した金額をそれぞれの譲渡対価とする。
⑥ その他合理的と認められる方法で計算した金額をそれぞれの譲渡対価とする。
(国税庁タックスアンサーNo.6301より一部抜粋)
区分方法をめぐる裁判例
この土地と建物の区分方法をめぐって、国と納税者が異なる主張を行い、
国が敗訴した地裁判決(令和4年6月7日判決)をご紹介します。
(1)概要
不動産貸付業を営む納税者が、平成28年8月19日付の売買契約により、不動産会社に自身の所有する土地建物を一括で代金総額10億500万円(税込)で売却をした。
しかし、契約書には、代金総額の内訳、土地の譲渡対価と建物の譲渡対価の額はそれぞれ記載されていなかった。
(上記2.(3)のケース)
納税者は代金総額のうち土地の譲渡対価を8億45万7,455円、建物の譲渡対価を2億454万2,545円(税抜1億8,939万1,245円)に区分して平成28年度の消費税等の確定申告を行った。
一方、国は、代金総額を平成28年度の土地の固定資産税評価額2億4,602万7,000円と平成28年度の建物の固定資産税評価額1億9,718万6,000円をベースに計算した固定資産税評価額比率(土地55.51% 建物44.49%)で按分すべきとして、土地の譲渡対価を5億5,787万4,284円、建物の譲渡対価を4億4,712万5,716円(税抜4億1,400万5,292円)であるとして、消費税等の更正処分等を行ったため、納税者が処分の取消しを求めた。
争点は、土地と建物の譲渡対価の区分方法である。
(2)東京地裁の判決
東京地裁は、納税者の申出を採用し、東京地裁が依頼した不動産鑑定士が原価法及び収益還元法により、本件土地建物の売買時点の時価評価額を鑑定したところ、土地の時価は7億6,604万3,000円、建物の時価は2億4,295万3,560円(税抜2億2,495万7,000円)と評価された(鑑定評価額比率は土地77.30% 建物22.70%)。
東京地裁は、本件鑑定の手法に不適切ないし不合理な点は見当たらず、本件鑑定の評価額は適正な鑑定に基づくものといえるとした上で、固定資産税評価額比率(土地55.51% 建物44.49%)と鑑定評価額比率(土地77.30% 建物22.70%)の建物の価額が占める割合に相当な乖離が生じており、この点について「消費税の課税標準を算出するに当たって実質的な差異が生じている」と指摘した。
よって、建物の譲渡に係る消費税の課税標準の算定において、固定資産税評価額の比率による按分法を用いる合理性を肯定する根拠は失われており、鑑定評価額比率による按分法を用いることが相当であると判断し、国が行った消費税等の更正処分等の大部分を取り消した。
敗訴した国は控訴しておらず、本裁判は既に確定している。
納税者 の当初申告 |
国 固定資産税評価額を もとに按分計算したもの |
東京地裁 不動産鑑定評価額を もとに按分計算したもの |
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代金総額(税込) | 1,005,000,000円 | ||
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土地の譲渡対価 | 800,457,455円 | 557,874,284円 | 776,865,000円(想定) |
建物の譲渡対価(税込) | 204,542,545円 | 447,125,716円 | 228,135,000円(想定) |
土地の比率 | 79.65% | 55.51% | 77.30% |
建物の比率 | 20.35% | 44.49% | 22.70% |
建物の消費税額 | 15,151,300円 | 33,120,423円 | 16,898,889円(想定) |
このように、土地と建物の譲渡対価の区分方法について、その取引ごとに適正な方法を選択することは非常に難しくなっています。
今回の裁判例のようなトラブルを避けるためには、売買契約の時点で売買契約書に合理的な金額による土地の譲渡対価及び建物の譲渡対価をそれぞれ記載しておくことを強くオススメします。
また、合理的な金額の算定方法につきましては、顧問税理士等の法の専門家に相談することをオススメします。