役員報酬について考える -定期同額給与とは?-
役員報酬(役員給与)は、役員に対して支給する給与で、従業員に対して支払われる給与とは異なるものとして、役員は自ら給与支給額を決定できる立場にあることから、原則として損金(費用)にはなりません。しかし、①「定期同額給与」②「事前確定届出給与」③「利益連動給与」のいずれかの方法により役員給与を支払った場合には「利益操作に該当しない一定の給与」とされ、損金(費用)とすることが出来るという税法上の規定(法人税法第34条)が設けられています。今回はその中でも一番多く採用されている「定期同額給与」について解説します。
目次
1.定期同額給与とは?
定期同額給与とは、毎月定額支給される給与をいいます。詳しい要件は下記のとおりとなります。
① 支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとの給与(定期給与)であり、かつ、その事業年度の各支給額が同額であるもの。
② 定期給与で、一定の給与改定がされた場合において、事業年度開始の日または給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日または事業年度終了の日までの間の各支給額が同額であるもの。
(ex.3月決算法人が役員給与を6月から改定する場合は「4月支給分から5月支給分までの期間」の月額給与を一定に、かつ、「6月支給分から翌年3月支給分までの期間」の月額給与を一定にしなければなりません。)
③ 継続的に供与される経済的利益で、その利益の額が毎月おおむね一定であるもの。
2.損金とならない定期同額給与
定期同額給与に該当していても、株主総会等で決議したとおりでない金額の支給や社会通念上認められない不相当に高額な部分の金額については、損金(費用)とはなりません。
そのため、株主総会等で定めたとおりの支給であることの証明として、役員給与について決議した株主総会の議事録等を作成し、保管することを強くオススメします。
3.定期同額給与の改定方法
定期同額給与の改定方法には、以下の3パターンがあります。
① 事業年度開始の日から3ヶ月以内の改定
② 臨時改定事由による改定
③ 業績悪化改定事由による改定
4.事業年度開始の日から3ヶ月以内の改定
役員給与は一般的には定時株主総会にて改定がされます。そこで定期同額給与の改定時期も、事業年度開始の日から3ヶ月以内に制限されています。
5.臨時改定事由による改定
役員の職制上の地位の変更や、役員の職務の内容の重大な変更、役員の病気による入院など、やむを得ない事情による改定を、「臨時改定事由による改定」といいます。
事業年度開始の日から、3カ月経過後に発生した偶発的な事情等によるものであって、かつ、利益操作等の恣意性のない改定については、定期同額給与と扱われます。
この臨時改定事由による改定は、増額だけでなく減額する場合も認められます。
6.業績悪化改定事由による改定
経営状況が著しく悪化したために、役員給与の支給が困難となることがあります。「業績悪化改定事由による改定」とは、会社の経営状況が著しく悪化したことや、それに類する理由による改定をいいます。
「経営状況が著しく悪化したことや、それに類する理由」とは、主な取引先との突発的な事由による取引停止や従業員の賞与の一律カットなどの状況をいい、一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは該当しません。
なお、この改定は「業績悪化」が理由のため、減額改定のみが対象であり、増額改定は認められません。
また、今般の新型コロナウィルス感染症の影響で著しく経営状況が悪化し、減額改定を行った役員給与について、売上が回復してきたため事業年度の中途で減額前の金額に戻した又は減額前よりも増額した場合においては、上記3①及び②の場合以外は定期同額給与には該当しないので注意が必要です。
7.よくある事例
(1) 設立初年度途中からの役員給与を支給した場合
「3月決算のX社が7月1日に設立したが、当初の期間は収入がないため役員給与をゼロとした。売上が発生する12月から役員給与を支給したが、この場合、定期同額給与として認められるか?」
会社を設立した年であっても、定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3カ月(9月30日)以内に行わなければなりません。そして、定期同額給与は、原則として事業年度の各支給月(7月から翌年3月まで)における支給額が同額でなければなりません。
したがって、12月から支給される役員給与は、定期同額給与とは認められず損金(費用)にすることは出来ません。
(2) 期中に定期同額給与を増額した場合
「3月決算のY社は、業績が好調であることから、12月の臨時株主総会で翌年1月支給分からの役員給与を月額10万円ずつ増額して支給することを決議した。このように定期給与の額を、事業年度の途中で増額改定した場合には、増額分についても損金(費用)となるか?」
増額した月額10万円の役員給与は、損金(費用)にすることは出来ません。
定期同額給与は、事業年度の開始日から3カ月以内の改定か、役員の職制上の地位の変更や業務内容の重大な変更等による改定(臨時改定事由による改定)、もしくは業績悪化改定事由による改定でなければならず、このいずれにも該当しないことから、増額した10万円の役員給与(合計10万円×3ヶ月=30万円)は損金(費用)とはなりません。
(3) 期中に定期同額給与を減額した場合
「3月決算のZ社は、5月の定時株主総会で取締役に翌月より月額100万円の役員給与を支給することを決議しているが、業績不調により、12月に臨時株主総会を開催し、翌年1月支給分から月額80万円に減額して支給することを決議したが、定期同額給与として支給額の全額が損金(費用)となるか?」
業績不調であったとしても、「著しい悪化」にまでは至っていないときは、業績悪化改定事由による改定には該当しません。
この場合、本来の定期同額給与は、12月に減額改定した80万円であり、減額改定前の100万円はその定期同額給与の額に、上乗せ支給をしていたと考えます。
つまり、100万円から減額した20万円の部分は、定期同額給与80万円の額に上乗せ支給していたものと考えられることから、6月から12月までの上乗せ部分20万円×7ヶ月=140万円は損金(費用)となりません。
(4) 期中に役員昇格による定期同額給与を支給した場合
「事業年度開始後、期の途中で使用人から役員に昇格した者の給与を、定期同額給与として取り扱うことは出来るか?」
使用人から役員に昇格したという事由は、定期同額給与の「臨時改定事由」に該当するので、以下の定期同額給与の要件を満たしていれば、損金(費用)とすることが出来ます。
① 役員昇格後に支給される役員給与が、毎月定期に支給されること
② 各支給月における支給額が同額であること
8. まとめ
今回は役員給与のうち、「定期同額給与」について解説しました。
定期同額給与の改定期限は、原則、事業年度開始の日から3ヶ月以内(ex.3月決算法人⇒6月末まで、12月決算法人⇒翌年3月末まで)となっているため、将来の業績予想を基に慎重に決定する必要があります。
また、役員給与は法人税だけでなく、源泉所得税及び個人の所得税にまで影響を及ぼします。
そのため、役員給与の改定の際は、顧問税理士等の会計及び法の専門家に相談することをオススメします。