為替相場の著しい変動があった場合のポイント
急激な円安が進行
ウクライナ危機を発端とした急速な円安が進んでいる。
令和4年10月20日には一時、1ドル=150円台と1990年8月以来、32年ぶりの円安を記録し、
令和4年1月から20%以上も下落しました。
急激な為替市場の変動は、企業の損益に大きなインパクトを与えます。
今回は、急激な円安による為替差損益の税務のポイントについて解説します。
円換算方法の原則
企業が事業年度終了時に保有する外貨建資産・負債(以下、「外貨建資産等」といいます。)については、その種類に応じて、
円換算方法が定められています。
税務における外貨建資産等の期末の円換算方法をまとめると下記の図表の通りとなります。
円換算方法図表
外貨建資産等の期末の換算方法(法人税法61条の9、法人税法施行令第122条の7)
外貨建資産等の種類・区分 | 換算方法 | 法定換算方法 | ||
外貨建債権 外貨建債務 |
短期外貨建債権債務 | 発生時換算法 or 期末時換算法 |
期末時換算法 | |
---|---|---|---|---|
上記以外の外貨建債権債務 | 発生時換算法 | |||
外貨建有価証券 | 売買目的有価証券 | 期末時換算法 | 期末時換算法 | |
上記以外の 外貨建有価証券 |
償還期限及び償還金額 の定めのあるもの |
発生時換算法 or 期末時換算法 |
発生時換算法 | |
上記以外のもの | 発生時換算法 | 発生時換算法 | ||
外貨預金 | 短期外貨預金 | 発生時換算法 or 期末時換算法 |
期末時換算法 | |
上記以外の外貨預金 | 発生時換算法 | |||
外国通貨 | 期末時換算法 | 期末時換算法 |
※「発生時換算法」は、外貨建資産等の取得等の時の円換算に用いた外国為替の売買相場
(取得時レート)により換算した金額を期末時の円換算額とする方法。
額を期末時の円換算額とする方法。
発生時換算法と期末時換算法のどちらも選定できる場合には、外国通貨の種類ごとに、かつ、一定の区分ごとに選定し、外貨建資産等の取得日の属する事業年度の確定申告期限までに届出書の提出を行います。(法人税法施行令第122条の5)
もし、換算方法を選定しなかった場合や届出書を期限までに提出できなかった場合には上記図表の法定換算方法により換算することとなります。(法人税法施行令第122条の7)
為替相場が著しく変動した場合の特例
為替相場が著しく変動した場合ついて、税務上、特例が設けられています。 発生時換算法を選択している場合において、為替相場が著しく変動した場合には、届出書の提出無しで、期末に外貨建取引を行ったものとみなして期末時レートによる円換算が認められています。(法人税法施行令第122条の3第1項)
つまり、著しい為替相場の変動があった場合には、原則にかかわらず、手続き不要で期末換算を行うことができます。
(この特例を適用した場合には、翌期での洗替処理は不要です。)
なお、為替相場が著しく変動した場合とは、事業年度終了時の個々の外貨建資産等について、次の算式により計算した割合(以下、「変動割合」といいます。)が「おおむね 15%以上」となるときをいいます。
【算式】
外貨建資産等の額につき事業年度終了日の 為替相場により換算した本邦通貨の額 |
- | 事業年度終了日の外貨建資産等の 帳簿価額 |
---|---|---|
外貨建資産等の額につき事業年度終了日の為替相場により換算した本邦通貨の額 |
特例適用時の注意点
今般の急速な円安(為替相場の著しい変動)により、特例による期末時レートでの円換算を行い、為替差損益の生じるケースが多くなることが見込まれるところ、複数の外貨建資産等を保有している場合には、特例のつまみ食いは認められません。
(法人税基本通達13の2-2-10)
つまり、特例を適用する場合において、変動割合が「おおむね15%以上」となる外貨建資産等については、全て期末時レートで円換算しなければなりません。
例えば、同じ米ドル建ての外貨建債務A・Bについて、変動割合が「おおむね15%以上」の場合、Aのみに特例を適用して期末時レートで円換算することは認められず、A・Bともに期末時レートで円換算しなければなりません。
さらに、異なる種類の外貨建資産等についても同様の取り扱いとなります。
例えば、発生時換算法を選択していた米ドル建ての外貨建債務と外貨建債権の変動割合が「おおむね15%以上」の場合、外貨建債務については、特例により期末時レートで円換算を行い為替差損を生じさせる一方で、外貨建債権については、発生時換算法により円換算を行い、為替差益を生じさせないということは出来ません。
このように、特例適用を実行しようとする場合には、企業が有している全ての外貨建資産等について、期末時レートでの円換算額がどのような影響をもたらすかをしっかりとシミュレートした上で、特例適用するかどうかの判断を行うことが大切かと思われます。