What's New

新着情報

HOME > 全ての記事 > 税務コラム > M&Aの際に生じたデューデリジェンス費用の取り扱い

M&Aの際に生じたデューデリジェンス費用の取り扱い

デューデリジェンスとは

最近では他社の株式を購入する企業買収(M&A)が増加しており、その買収先は国内だけではなく、
海外の会社にまで及んでいます。
このような企業買収(M&A)を行う際は、多額の費用をかけて、会計事務所や法律事務所に買収先の財務内容や法務リスクの有無の調査を依頼するのが一般的となっています。
この財務状況等の調査をデューデリジェンスといいます。
今回はこのデューデリジェンス費用の取り扱いについて解説します。

意思決定のタイミングによる取り扱いの違い

法人税法上、企業買収等により購入した有価証券(株式)の取得価額は、その購入金額のほか、「購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用(購入のために要した付随費用)」も含まれます( 法人税法施行令119条1項1号)。
また、「購入のために要した付随費用」に、一般的に少額となることが多い通信費や名義書換料は含めないことができるとされていますが(法人税法基本通達2-3-5)、デューデリジェンス費用については、法令等で規定されていません。

そのため、実務では、買収先の株式購入に係る意思決定(株主総会や取締役会での決議等)の“前”に発生したデューデリジェンス費用は、意思決定を判断する場合の費用として、「購入のために要した付随費用」には該当しないものと考えられています。
一方で、意思決定の“後”に発生したデューデリジェンス費用は、意思決定により株式購入が確定している場合の費用として、「購入のために要した付随費用」に該当し、株式の取得価額に含めることが一般的な考え方となっています(【図1】)。

【図1】実務上のデューデリジェンス費用の税務処理方法

デューデリジェンス費用の発生時期 税務処理
意思決定(株主総会や取締役会での決議等)の”前”※1 「購入のために要した付随費用」
に該当しないため、株式の取得価額に含めない
(費用計上処理)
意思決定(株主総会や取締役会での決議等)の”後”※2 「購入のために要した付随費用」
に該当するため、株式の取得価額に含める
(資産計上処理)

※1 意思決定を判断する場合の費用である。

※2 株式の購入が確定している場合の費用である。

買収先を特定している場合の取り扱い

上記で述べたとおり、実務上、デューデリジェンス費用が株式の取得価額に含まれるかどうかは、デューデリジェンス費用が株式の購入に係る意思決定(株主総会や取締役会での決議等)の”前”と”後”どちらで発生したかを基準に判断されます。
しかし、意思決定の“前”に発生したデューデリジェンス費用であっても、税務調査の際に株式の取得価額に含めるよう指摘されるケースがあるようです。

例えば、意思決定の“前”に発生したデューデリジェンス費用であるものの、部内レベル等でそのデューデリジェンスの対象とした会社を既に買収先として特定しているケースです。
このケースでは、形式的にはデューデリジェンス費用が意思決定の“前”に発生したとしても、実質的には“株式の購入が確定している場合の費用”に該当するものと認定され、「購入のために要した付随費用」として株式の取得価額に含めることが求められます。

つまり、【図1】のデューデリジェンス費用の税務処理は、株式の購入に係る意思決定のタイミングで形式的に判断するのではなく、実質的に見て“意思決定を判断する場合の費用”であれば「購入のために要した付随費用」に該当せず、実質的に見て“株式の購入が確定している場合の費用”であれば「購入のために要した付随費用」に該当します。
一方、複数の買収候補の企業の中から買収先を決定するために、同時並行でデューデリジェンスを依頼したことで発生したデューデリジェンス費用であれば、デューデリジェンスの時点で買収先が確定していないことが明らかであるため、“意思決定を判断する場合の費用”として「購入のために要した付随費用」に該当しません。

このように、デューデリジェンス費用については、意思決定のタイミングで形式的に判断するのではなく、そのデューデリジェンスの目的や性質等を考慮した上で「購入のために要した付随費用」に該当するかどうかを判断することが大切かと思われます。