相続税と贈与税の一体化はいつから?税制改正について解説
アメリカ、ドイツ、フランスなどの諸外国にならって、今、日本では相続又は遺贈によって財産を取得した人に課される「相続税」と贈与によって財産を取得した人に課される「贈与税」を一体とする流れが進んでいます。
今回は、相続税と贈与税の一体化の概要や、いつから適用されているのか、そして、その一体化に向け施行された税制改正について解説します。
目次
相続税と贈与税の一体化とは?
相続税と贈与税の一体化を簡単に説明すると、相続税の税負担と贈与税の税負担を同じにするということです。
では、現在の我が国の相続税と贈与税はどうなっているのかを簡単に説明します。
(1)相続税
①概要
相続税は、相続又は遺贈により財産を取得した個人に対して、その財産の取得時の時価を課税価格として課される税金
②申告が必要な人
相続又は遺贈によって取得した財産の価額の合計額(借金などの債務の金額を控除し、相続開始前一定期間の贈与財産の価額を加算)が基礎控除額を超える場合、その財産を取得した人
③計算方法
相続財産の合計額から債務及び基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を控除した残額を法定相続分で按分した金額×税率
(10%~55% 下記④参照)
④速算表
課税遺産総額を法定相続分で按分した金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(2)贈与税
①概要
贈与税は個人から贈与により財産を取得した個人に対して、その財産の取得時の時価を課税価格として課される税金
②申告が必要な人
1年間に贈与により取得した財産の合計額から一定の控除額を控除して残額がある人
③計算方法
ア 暦年課税(暦年贈与)の場合
1年間に贈与により取得した財産の合計額から基礎控除額(110万円)を控除した残額×税率(10%~55% 下記、速算表参照)
速算表
一般 | ||
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例(直系尊属※から18歳以上の人への贈与の場合) | ||
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
200万円超~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
※直系尊属
父母、祖父母など自分の前の世代の血のつながった親族のこと。
また、血はつながってはいませんが養父母や養父母の両親となる祖父母も直系尊属となります。
イ 相続時精算課税の場合(贈与者が60歳以上かつ受贈者が18歳以上の推定相続人・孫)
1年間に贈与により取得した財産の合計額から特別控除額(生涯累積で2,500万円)を控除した残額×20%
(注)贈与後に贈与者が死亡した場合には、相続財産と贈与財産(贈与時の価額で評価)を合算して相続税額を計算する。
そのため、相続時精算課税は相続税の先払い的性質を持ちます。
(3)一体化の目的
相続税と贈与税の一体化は、税負担のアンバランスを解消し、若者への資産の早期移転を促すことを目的としており、具体的には次の2点が挙げられます。
①税の公平化の実現 現行の税制では、相続税と贈与税は別々に運用されており、生前贈与により財産を分割して贈与することで相続税の負担を軽減することが出来ます。
このため、一部の資産家にとって有利な状況を一体化によって公平にする。
②世代間の資産移転の促進 高齢化社会において、若年層への資産移転を促進し、経済活動を活性化させることが求められています。
しかし、実際には相続税がかからない人や相続税がかかる人であっても相続税より贈与税の方が税率が高いため若者への資産の移転が進んでいません。
この状況を一体化によって、税負担を平準化し、生前贈与や相続を通じて円滑に高齢者から若者へ資産が移転できるようにする。
一体化はいつから?
「相続税と贈与税の一体化は、いつから適用されているのか?」という疑問をお持ちの方もいるでしょう。すでに令和5年(2023年)度の税制改正で決定しており令和6年(2024年)1月1日から適用されています。
この改正では、生前贈与の加算期間が従来の「相続開始前3年」から「7年」に延長されるなど、いくつかの重要な変更点があります。
令和5年度税制改正の詳細
ここでは相続税と贈与税の一体化に関する令和5年度税制改正の中身を見ていきます。
具体的には、下記の3つが挙げられます。
暦年課税による生前贈与の加算対象期間等の見直し
相続又は遺贈により財産を取得した人が、その相続開始前7年以内(改正前は3年以内)にその相続に係る被相続人から暦年課税による贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額(その財産のうち相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算します。この改正は、令和6年(2024年)1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。
表にまとめると下図のとおりとなります。
相続時精算課税に係る基礎控除の創設
相続時精算課税を選択(※1)した受贈者(以下「相続時精算課税適用者」といいます。)が、 特定贈与者(※2)から令和6年(2024年)1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円 (※3)が控除されます。また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算されるその特定贈与者から令和6年 (2024年)1月1日以後に贈与により取得した財産の価額は、基礎控除額を控除した後の残額とされます。
※1 相続時精算課税は、原則として、①贈与者が贈与の年の1月1日において60歳 以上であり、②受贈者が同日において18歳以上で、かつ、贈与時において贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫である場合に選択することができます。 なお、相続時精算課税を選択した場合、その後、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ変更することはできません。
※2 特定贈与者とは、相続時精算課税の選択に係る贈与者をいい、令和5年(2023年)分以前の贈与税の申告において、すでに相続時精算課税を選択している場合も含みます。
※3 同一年中に、2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合の基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格であん分します。
(注)相続時精算課税を選択した場合、その特定贈与者からの贈与について暦年課税の110万円の基礎控除の適用はできません。
【国税庁「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」より引用】
相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例の創設
相続時精算課税適用者が、特定贈与者から贈与により取得した土地又は建物について、 その贈与の日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に、令和6年(2024年)1月1日以後に災害(※1)によって一定の被害(※2)を受けた場合(その人がその土地又は 建物を贈与日から災害発生日まで引き続き所有していた場合に限ります。)には、その相続税の課税価格への加算の基礎となるその土地又は建物の価額は、その贈与の時における価額から、その災害による被災価額を控除した残額とすることができます。※1 災害とは、震災、風水害、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び火災、鉱害、火薬類 の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいいます。
※2 一定の被害とは、その土地の贈与時の価額又はその建物の想定価額(注1) のうちに、その土地又は建物の被災価額 (注2)の占める割合が10%以上となる被害をいいます。
(注1) 想定価額とは、その建物の災害発生日における一定の算式により求めた価額をいいます。 (注2) 被災価額とは、被害額から保険金などにより補塡される金額を差し引いた金額をいい、その土地の贈与時の価額 又はその建物の想定価額を限度とします
【国税庁「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」より引用】
相続税と贈与税の一体化への対策は?
相続税と贈与税の一体化を進める令和5年度の税制改正によって暦年贈与の節税効果は減少しましたが、暦年贈与自体が使えなくなったわけではありません。そこで暦年贈与を用いた相続税対策をいくつかご紹介します。
孫やひ孫への贈与
暦年贈与には、財産を贈与してから7年以内に相続が発生した場合、その贈与した財産を相続財産に加算するというルール(以下、「7年ルール」といいます。)がありますが、7年ルールの対象となるのは「相続人や受遺者に対する贈与」に限定されており、相続人や受遺者ではない孫※やひ孫はへの贈与は対象とはなりません。よって、孫やひ孫への暦年贈与は相続人に対する暦年贈与よりも相続税対策となります。
※被相続人の子どもがすでに死亡しているなど、孫でも相続人や受遺者となるケースもありますので注意が必要です。
法定相続人以外への贈与
上記のとおり、7年ルールは「相続人や受遺者に対する贈与」に限定されているため、自分の子どもの配偶者や籍を入れていないパートナーなど法定相続人とならない人への暦年贈与も相続税対策となります。
長期間の贈与
7年ルールは7年間に限定されているため、7年超の暦年贈与は相続税対策となります。なるべく早いうちに暦年贈与を行うことをオススメします。
複数人への贈与
暦年贈与は、贈与を受けた人ごとにそれぞれ年110万円の非課税枠があります。そのため、複数人への暦年贈与は相続税対策となります。子ども、子どもの配偶者、孫、孫の配偶者、ひ孫など、暦年贈与をする人数が多ければ多いほど節税効果は高くなります。
相続に関するご相談なら
今回は、相続税と贈与税の一体化について、そして、その一体化に向け施行された税制改正について解説しました。
今後も相続税と贈与税の一体化に向けての動きが続くと思いますので、相続税と贈与税の改正には注視が必要です。
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高瀬 明彦